初めてのパリひとり旅

20年も前になるが、初めてひとりでパリへ行ってみた。フランス語は図書館で独学した。飛行機にひとりで乗るのも初めてだった。飛び立つ時のエンジンのゴーッという音が私を高揚させた。パリのアサス通りにあるペンションに日本から予約しようと国際電話してみたが、私のフランス語は全く歯が立たず、辞書を調べながら書いたファックスを送って予約し、郵便局から送金した。ペンションに着くとにこやかにふっくらしたマダムが迎えてくれてたどたどしいフランス語を話す私に「スネパグラーヴ」と心配しないでと言ってくれた。

朝食と夕食付でペンションの家族と宿泊している人達合わせて8人位で食事をした。マダムが声楽の勉強に来ている女の子を紹介してくれて、私の事もバレエを勉強しに来たと紹介してくれた。「ダンスは話せなくても大丈夫だわね」と言ってくれた。

女の子は友達になろうとしてくれていろいろ話しかけてくれたけど、私があんまりフランス語が話せなさすぎて話が弾まないから申し訳なくて距離をとってしまった。食事はみんな楽しそうに話すけど何を言ってのかわからない事の方が圧倒的に多く一生懸命聞いているだけだった。

ある日の夕食で、お皿の上に緑色の肉厚の葉っぱが折り重なったコロンと丸い野菜らしきものが乗っていた。初めて見た食べ物。隣のおじさんに「ケスクセ?」これ何?って聞いて見た「アルチショ」と何回もいうけど全然わからない。そしたら「コムサ」と言って葉っぱを一枚取ってソースに付けて食べて見せてくれた。後で調べたらアンテチョークだった。

バレエのレッスンは楽しかったけど、まわりの人達が楽しそうに会話してて自分だけがそこに入れない、たまに気を使って話しかけてくれてみんな優しいけどそこから発展しない事が辛かった。

私のフランス語は幼児以下かも知れないと思うと悲しくて、ペンションの前のリュクサンブール公園で勉強していたら、誰か知らない人がそれを見て「デペシェー」急げーと笑いながら声を掛けて歩き去って行った。

何度も泣きそうになりながら過ごした二週間だったけど今思えば頑張ったなと思う。20年後の今はインターネットで簡単に予約も出来るしスマホの翻訳機能もあるしでもっと苦労しないのかも知れないけれど、不便な方が遠回り出来て何だか楽しいなと思う私です。