病院の口コミ

先日、医師ら60人がグーグルに訴訟を起こしたと言うニュースがあった。不当に悪い口コミは病院側からすると困るし迷惑だろう。だが、病院を選ぶ患者側としては生死にも関わる事もあるので悪い口コミの真偽はともあれ、その病院へ行くのは避けるのだ。

私の父は高齢で生活保護を受けていて独り暮らしだった。その頃私は父からの「明日死ぬ」というような毎日の電話に精神的に追い込まれ、3ヶ月間父を訪問せず、訪問医に全てを任せていた。

ある日、誤嚥性肺炎でМ病院に入院したとの電話が入る。3日程してその病院から結核だったので転院が必要と連絡があり、「受け入れ病院がなかなかなくて少し遠いH病院しかないけれど良いですか?」と言われた。とっさの事だったので「はい」と答える。ゴールデンウィーク前の(金)だった。次の(火)の平日に転院するので病院へ来て下さいとの事で、私は急いで病院の場所等を検索する。その時に病院の口コミを見てしまう。それはとても酷いもので、まるで患者を見殺しにするかのような病院であるかのように書かれているものが何件も、働いている看護師の口コミもかなりヤバいものが多く、良い口コミが一切ないのだ。

「これは駄目だ」と思った。転院先を変えて貰おうと病院に電話をしたが主治医がいないので対応出来ないと言われた。(土)(日)(月)と何度連絡しても繋いでくれないし、何の対応もしてくれない。

(火)当日の朝一番に病院へ行き、掛け合った。担当医師の上司が出て来て「今からは変えられない」と一点張り。「そんな口コミでその病院に転院するのを断ったらこちらの病院としても後々迷惑する」と言われた。

私は泣きながら訴える。「もしその病院に行くなら裁判でも何でもして訴える!何故何度連絡しても繋いでくれなかったのか、家族の意思を無視して転院を強行するのか」

遂に病院側が折れた。転院はゴールデンウィーク明けで近くのK病院になる。

入院してからの父は、電話をしても眠っていて気付かない事が多くなる。後で折り返して来るが何を言っても「わからん、お前に任せる」と弱々しい声で言った。

K病院に転院になった日の午後。父から電話がなった。

「看護師から聞いたよ。お前凄いな。凄い力あるな。俺のために頑張ってくれたんやな。ありがとう。お父ちゃん、急に元気になったわ。感謝します。ありがとう。」こんなに面と向かって感謝の言葉を言われた事は初めてだったので私は照れた。「元気になってや」「うん、元気になる!」いつものハキハキした大きな声での会話はこれが最後だった。転院して10日目に逝ってしまった。

窓から美しい緑の山が見える、優しい看護師さんやお医者さんがいるとても良い病院だった。最後まで父を大切に看護してくれたのが伝わる病院だった。

死という同じ結果になろうとも、こんな病院には良い口コミはしても悪い口コミは絶対にしないのだ。