金の財布

私達姉妹は生まれてから大人になるまで、決してお金持ちではなく、けれども貧乏も感じなく普通に不自由なく育ててもらいました。けれども子どもなりに何となくうちにはそんなにお金はないのだと感じていたのだと思う。出掛けて父が「おもちゃ買うたろ」って言っても「いらん」とか言ってた記憶、自分から欲しい物を言う子どもではなかった。実際、店をやっていたが、借金もあってグルグルお金が回っている中で暮らし食べていたのだと中学生くらいではわかっていた。

なのに家族でよく外食した。父は黒い長財布を母に渡して「これで払って来て」と言った。私達が20歳を過ぎても妹と2人で出掛けると言うと「お前ら仲いいから出したるわ」と黒の長財布を渡してくれた。お墓参りにいとこと一緒に行く時も、一緒に家族で旅行に行く時も黒い長財布があった。私達姉妹はその財布を「金の財布」と呼ぶ。その財布からお金を出しても出してもまたいつの間にかお金が入っていて永遠になくなる事はないみたいだったから。

父と過ごした最後の3年の間もその金の財布は活躍した。私が行くと金の財布を渡されて会計させられた。それは父の威厳の象徴。譲れないものだと私は知っていた。

その財布は空っぽになって静かに私の部屋の引き出しの奥にある。

いつか妹が父と和解して、父のお墓参りに一緒に行こうと言ってくれたら、この金の財布にお金をいっぱい入れて「お父さんの金の財布やから大丈夫やで」って言ってお腹いっぱいご飯を食べよう。