人間らしさ

私の家は理髪店でした。

昭和の時代。

父は地方の中学卒の子を何人も住み込ませて見習いから技術者に育てながら一緒に働いていました。

ハチャメチャな店でした。

私が通っていた中学のワル達グループが店に散髪に来て学校禁止のパーマをあてる。

うちの店は誰も止めません。お客さんですもん。それどころか「おう、今日はパーマちゃうんか」「いや、学校で怒られた」

パーマ客にはタバコを勧めるが中学生にも勧めてた。「ボクいいです」「なんやお前タバコも吸えんのか?」

漫画はあるし、ジュースもお菓子もあるし流行りの歌謡曲やロックが一日中流れて。

二十歳前後のスタッフはみんなバカみたいな冗談ばっかりやってて今ならセクハラで訴えられそうなんだけど、ワルの女子とかは絶対胸触られてたし、卑猥な発言満載やったけど、その頃はみんなバカみたいに面白がって笑い転げてた。

ワルの中学生は数人で来て、スタッフ部屋にも上がり込んで一緒に騒いでた。

それでも店は昭和の経済成長期で忙しく、仕事は朝8時くらいから夜は9時や10時迄して、客もバンバンこなしてて、なんでかそこにいる客の中学生に「ちょっと、そのペーパー拡げて」「ロット渡しやってくれ」とか言って働かせたりしてた。中学生は何かわからんけど面白がってか素直に手伝ってた。もうめちゃくちゃや。

だけどそいつらワル中学生達必ずまた来る。何かそこが居場所やったんやないか。

悪いんやけど、なんか団結してる。

遊んでるけど、ちゃんと働いている。

今で言えばブラック企業並の労働時間。

私は高校生の時、年末はそこでバイトしてたけど、一日ずっと笑ってた。仕事と言うより遊んでいるみたいに大騒ぎして。

今、そんな店あったら学校や警察とかも来そう。漫画にでも出て来そうな店と親父と若者達。

そんなワルの中学生の中から美容師になり店を構えるまでになった子も何人かいると言う噂。

ワルやったけど、みんなちゃんと大人になった。

ハチャメチャな父と店やったけど、ギリギリヤバい感じやったけど、あかん事ばっかりしてたけど、そんな父が亡くなって、そこで働いていたお兄ちゃんが言った。

「あの店で働いてから何でか病気が治った」「ハチャメチャで自由にさせてくれた」「だから今がある」

滅茶苦茶な変わり者の父だと思ってたけど、人間らしくて、人間臭い情がある。

何が良くて何が悪いか。

情があれば幸せなのかも。