優しくなくてごめんね

25歳の時、高校の同級生の友達が結婚した。結婚式で私はスピーチをし、歌を歌った。相手の旦那さんは優しい人だった。2人はマンションの屋上でテニスをしたり、バイクに乗って2人で出掛けたりして幸せそうだった。私が夜の遊びに彼女を誘いに行っても「こいつもストレスたまるやろうから一緒に遊んだってな」と快く出してくれた。

ある日私の職場に突然彼女がやって来た。旦那さんが事故に合って入院して危篤だと告げた。私はどう言えばよいかもどうすればよいかもわからなかった。病院へ行くと彼は薄っすらと眼をこちらに向けたが、何も話せず意識もあるのかないのかわからない状態だった。数日後、彼は亡くなった。

友人は私とよく会いたがった。何度も何度も「あの日私がもう少し早く起こしていれば」と後悔の気持ちを伝える。「あなたのせいじゃないよ」と言ったって何を言ったって、泣きながら何度も何度も話し続ける。お寺に寂聴さんのお話を聞きに行く彼女に付いて行った事もある。何かにすがるしかなかったのだろう。彼女は「人が死ぬなんて思わないやん、なのに…」と言った。

何度も会う内に彼女の繰り返しの話を聞くのが面倒になってくる。気持ちはわかるけど、少しずつ会うのを上手に断るようになる。

今は身近な人が亡くなった時の気持ちがわかる。あの時、面倒でもしんどくても彼女の側に何度でも何度でも居てあげればよかった。その立場にならないとその人の苦しみも悲しみもわからない。浅はかな若い自分、優しくない自分。亡くなる前のあの旦那さんの眼は私に彼女を頼むって言いたかったかも知れないのに。ごめんね。2人にごめんね。