最後の三年間

独り暮らしになった父に会いに行くのはだいたい2週間に1回。

私が行く時はいつも鍵を開けっ放しにして待っていた。

ベッドの上から笑顔で手を挙げる時、本を読んでいる時、眠っていてそうっと入った私に気付いて「おっ来てたんか」と言う時。

近くのお寿司屋さんに出前して貰うのは贅沢で、握りやウニ、冬はセコ蟹、春は鮎の塩焼きを特別に仕入れて貰う。

父が見付けたケーキ屋さんでケーキを買って、果物も買って、テーブルの上は賑やかになる。

「テーブルにいっぱい食べ物があると楽しい気持ちになるな」と言ってたね。

ワインとビールで乾杯する。

とりとめもなくいろんな話をする父からは私の知らない父の人生を知る。昔話が多くて同じ話を繰り返しても、何度でも楽しく聞いていた。

父の人生の最後の三年間は、私とだけ繋がっていて私だけが大切だったんだと思う。

私にとっても父の最後の三年間が一番父と繋がれた時間だった。

それまでは私を解って貰えないと思い、ほとんど話をしない時期や、父に元気を出して欲しくて一緒に何かをしようと誘っても相手にして貰えなかったり、すれ違いが多かった。

「今日が最後かも知れん」と毎回言いながら焼き肉を食べに、新しく見付けた料亭に行き、ホテルのバーでコーヒーを飲んで帰る日々。

最後、最後と言いながら、結構お金使ったねえ。食べるのはほとんど私なんだけどね。

窓の外の虹を見付けたのは父、一緒に見た虹は特別な虹。

子供の頃は仕事が忙しくて休みの日も疲れていてなかなか遊んで貰えなかったけど、最後の三年間にいっぱい遊んで貰った気がする。もっともっと一緒に遊びたかったよ。

父は早く死なないとお金が失くなると言ってた。そりゃそうだ、会う度に贅沢するからね。親のプライドってあるよね。子供に食べさせたいってのがある。

母や妹には言えない。

たまたま私は運良く最後に父と上手く繋がれただけなのかも知れないとも思う。

2人だけの秘密の幸せは私が死んだらもう誰にも知られないんだなあとさみしくなったので、ブログに残してみようかなと。

感謝。