阿保

父が亡くなってから三週間。
ようやく涙の出る回数が減って来た。
喘息が悪化して病院へ薬を貰いに行く。
新しい仕事が入ってくる。
次のプロジェクトに向かっていく作業は楽しい。
今日買って来たばかりのバゲットとアボカドとチーズで久しぶりにワインを飲もう。
お風呂にお湯をためよう。
今日は早い時間に帰って来たから余裕がある。
ふと、父はどうしてるかな、今日あたり電話してみようかなんて頭をよぎる。
そうだ、もう死んじゃったんだ。
そこに骨になっているやん。
忘れてるやん。
父の住んでいたマンションにまだいて、行けばベッドの上から手を振ってくれそうな気がする。電話をすれば、「なんや」って返ってきそうな気がする。
弱っていった父も、意識の失くなっていた父も、息をしなくなった父も、火葬して骨になった父も、ちゃんと全部見たはずなのに、まだ何処かに居そうな気がする。
私は阿保になったんかな?
何かの瞬間にそんな現実を忘れて、父が生きてた時と同じ頭になる。
私の脳は正常なのか?
死んでもなんか一緒にいるやん。
はい、今日は飲もう飲もう。
一緒に飲もう。