父の家財道具を全部棄てた。
空になってすっきりした部屋。
思い出がいっぱいの場所。
また次の誰かの思い出の場所になるのかな。
父との思い出はいっぱいあるけど、一緒に住んでいた時よりも、離れて暮らした3年間の方が思い出が深い。父が離婚して妹とも連絡が途絶えて、私だけと会っていた日々。
2週間に一回は会って一緒に飲んで御飯を食べた。取り留めもないこといっぱい喋った。
優しかったけれど、子供の時も大人になっても父は仕事で私と遊ぶ事は少なかった。
仕事を辞めて1人暮らしの父は本を読む事とたまに野球をテレビで観るくらいしかなかったから、充分に私の相手をしてくれる。
美味しい物買って来いと言い、散歩に行っては近所のケーキ屋さんやお寿司屋さんを探してくれてたり。焼き肉の帰りにコーヒーを飲みに行ったり。お寿司をとって並んで食べた。
アッと言う間に3年は過ぎた。
楽しい時間はすぐ過ぎる。
私が一人占め出来た3年間。
いつも私の父だった。
頼りになる父だった。
意識が遂に失くなる瞬間まで、父は私のちゃんと父で、私の事を思ってくれていた。
緊急入院したのに預金通帳と現金はちゃんと持って行ってて、仮退院の時「お金持ったか」と私に渡したかったんだ。私に残したお金、それは全部2人でもっと美味しい物食べる予定のお金だったはず。「お金失くなったらお前出してな」って言ってたやん。まだまだ使いきってないやん。もっと遊びたかった。子供のように甘えていたかった。父に会いに行く日は私は子供に戻れた。コンビニに行けばいつも「好きなもん買え」って言ってくれる父。
どれだけ歳をとってしんどくても、父で在ろうとした父。
私を心から信じてくれた、認めてくれた、いつもお前はすごいなって言って。
本音で語り合えた3年間。心が通じた3年間。
思い残す事が無くて、喋り尽くした3年間。
夕日に向かって一緒に歩いた道。
今年も一緒に鮎を食べたかった。
この部屋で。