人間の不思議

不思議。
いつもそこにいた。
私と同じように柔らかな体温のある肉体が、
口も眼も動いて、声を出して喋る。
肌色の皺のある手にも触れた。
浮腫んだかさかさの足。
声を掛ければ頷いたり、手を振ったり、笑ったりする顔があった。
電話を掛ければ向こうから声が聞こえて。
いつも待っていてくれた人。
その人がもういない。
燃やされて、バラバラの骨になってしまった。
写真とその骨の幾等かがそこにあって、私へまるでそこに父がいるかのように声をかけるけど
そんなのは本当は誤魔化しだ。
悲しみを乗り越える為の儀式に過ぎない。
ひどいよな。
燃やしちゃうなんて。
死ぬってこういう事。
何にもなくなる。
消えてなくなる。
人間の宿命は残酷だ。
生まれてくるのも不思議。
死ぬのも不思議。